1977年 大阪の個展記事  新聞名不明

「小さい動物のいる風景」を描く油彩小品約三十点。三重県桑名市に住む五十三歳の作者は、
実生活でも、奥さんとふたり、小動物たちに囲まれて暮らしている。
小動物の生態を記録したり、愛らしい表情を描写したりするのが目的ではない。弱肉強食の
過酷な現実の世界にはあり得ない、平和な小動物のユートピアに、芸術上の実在性を与える
ための詩的な空間が、ちいさな画面の上につくり出される。
現実の厳しさに対抗するには、あまりにももろくはかないと見えるあわくて甘美な色彩が、型破
りの単純素朴な構図で塗り込められて、イヌやネコやタヌキやリスたちがくつろげる別天地になる。
軽々と吹けば飛びそうな小さなユートピアだが、この空間はいがいに堅固で浮世の冷たい風の
侵入を許さず、小動物たちの平安を守り切る強さを秘めている。
近代的な油絵の理解者よりも、古画、古陶磁の愛好家たちに高く評価されるという。東洋の文人
主義の理想が、新たなリアリティーを獲得したともいえる作品である。

戻る